「海へ天一条のクルキチの滝」シマを偲ぶ俳句

榊 秀樹(鹿児島在住、小湊出身)氐のシマを偲ぶ俳句、第二弾が7月25日に小湊集落に送られてきましたので、ご紹介いたします。
福祉館の入って左壁に掲示しています。

「海へ天一条のクルキチの滝」
「蒼天の瀑布一条海へ落つ」

 クルキチの滝を詠んだ二句です。
正月に弟の舟から眺めた滝の様子です。
天から一筋(一条)に落ちてくる滝に感動しました。
以前「海人の天の一瀑島岬」とも詠みましたが、その時は写真を通しての句でした。
今回は「海へ」がそのままの景です。但し「滝」は夏の季語

季語「滝」「瀑布」(夏)

「サネン葉に母の藁しべ蓬餅」

 蓬餅が大好きで、シマからよく送ってもらいます。
ーロサイズで食べやすいのですが、やはり昔の母親の味には敵いません。
サネン葉二三枚で包まれた大ぶりの蓬餅は、稲藁の蕊で括られ海や山行きの大事なお供でした。

季語「蓬餅」(春)

「ケンムンの森へ入りたりバードデー」

 季語「バードデー」で詠むよう題として当てられた句です。「愛鳥週間」のことです。
鳥の観察で夢中になって深山に入り込んだということです。
昔は目白捕りやハジキミを持って鳥打ちに山へ入りましたが、観察という感覚はありませんでした。
ケンムンは山の守り神?今は自然愛護の神なのかも知れません。

季語「バードデー」(夏)

「青葉木兎(あおばづく)島建て石の謂れなど」

 青葉木兎は梟の仲間で、森の賢者です。
「島建て石」にまつわる伝承もきっと知っているはず。
夜な夜な「ホッホー」と鳴いているのは、あれはシマの成り立ちを話って聞かせているはずなんだが。
ガジュマルも無くなってしまい、その鳴き声を聞く機会も少なくなりました。

季語「青葉木兎」

「鋸(もり)収む珊瑚の海の大西日」

 日焼けした男が漁を終え、ゆっくりと鋸をしまうところです。
腰にはブダイやベラ、蜻などの獲物がぶら下がっています。
日は西に傾き、珊瑚の海を輝かせています。
イスビラの浜はまだ熱く灼けています。
一昔前は「われは海の子」の時代がありました。

季語「大西日」(夏)

「磯籠の尻の滴り島野菊」

 磯籠(テル)を担いで、漁から帰るところです。
ヒシバナで貝やウニを獲るのは大抵女や子どもの仕事。
今日はそれなりの収穫があったようです。
テルからは獲物の潮が滴り落ちています。
磯道にはシマノギクが労をねぎらってくれていました。
これもまた一昔前の幻影です。

季語「島野菊」(秋)

「空っぽのマングース罠山眠る」

 マングースがハブの駆除用として放されたのが、1979年だそうです。
ところが予想に反して他の動物を捕食するようになり、外敵として駆除されるようになりました。
山中に数多の罠が仕掛けられ、息の長い活動の末、今では罠に掛かるマングースもいなくなりました。
シマの前山に掛かったのが最後だと聞いています。
奄美の山の動物たちも安心して眠りにつくことができることでしょう。

季語「山眠る」(冬)

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